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廊下側、教室入り口近くに小柄な子が佇んでいた。
掃除当番のクラスメイトや、廊下を行く生徒は皆、彼女を見て一瞬ぎょっとしたような表情を浮かべる。
嫌な物と遭遇してしまったという風に足早に通り過ぎたり、興味深々といった様子で遠巻きに観察したりしていた。
「雛美。掃除、お願いしていい?」
黒板消しを手渡すと「あいよ」と彼女は軽く請合ってくれた。
「しかし素子も大変だねぇ、三年生は委員会活動はもう終わった筈なのにさぁ」
私は曖昧に苦笑いを浮かべる。
「好きでやってる事だから」
なんて本心を告げたら、間違いなく『おかしな人』のレッテルを貼られてしまうだろう。
入り口近くの、胸に小さな黒い毛玉を抱えている一年生の下へ歩み寄る。彼女はうな垂れながら、その物体を見つめている。
「死んじゃったんだ、その子」
声をかけると、彼女ははっとしたように顔を上げた。黒目がちの大きな瞳と目が合った。
「あ、あの……園枝先輩、ですか?」
「うん」と頷くと、彼女はテープの早回しのようなスピードで一気に喋りだし、ペコペコと何度も頭を下げた。
「あの、兵頭先生に聞いたら先輩のとこに行けって言われて。ごめんなさい。先輩は三年生だし、今、受験とか忙しい時期だから本当はこんなこと頼むの絶対おかしいとは思うんですけど、ごめんなさい。でも二年の先輩もこういうときどうして良いか知っている人、誰も居なくて……ごめんなさい」
彼女が頭を下げるたびに腕の中で小ウサギの死体が、座っていない首が、嫌な揺らぎ方をしている。
恐らく、首元に噛み付かれたのだろう。ぱっくりと桃色の肉が見え、ウサギの黒い体毛は所々、濡れたように光っている。血液が付着しているのだろう。
「謝ることじゃないよ。どうしていいかわからなくて、ここまで連れて来ちゃったんだ?」
「はい。なんだか、ウサギ小屋にそのままにしておけなくて……ごめんなさい」
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