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夜の8時を回った頃、おじさんは帰宅した。
私と大和は既に風呂に入っていて、おじさんの帰りを待って夕飯を食べればすぐ寝られる態勢だった。
大和は上は裸のまま、下に適当な七分丈のパンツを履いてうろつくから、いつもおばさんに文句を言われてる。
ちなみに、私は大和のシャツとハーフパンツを借りた。メンズだから当然ブカブカだが、その着心地が気に入っている。
「お帰りなさい、おじさん」
「や、さっちゃん。ただいま」
おじさんはとても陽気で、見た目も年齢以上に若々しく、学生時代はモデルもやっていたから、容姿も抜群だ。
そんなおじさんが、堅物な父と友人だという事実は、未だに理解できない。
まるで正反対の二人が友好を深めた理由など、想像もできない。
「父さん、帰ったんだ。俺さっきから腹が鳴りっぱなしなんだけど」
食卓の方から、大和も顔を覗かせる。
まともに拭かれていない髪は、水を床に滴らせている。
「大和、髪濡れたままだと風邪ひくよ。ほら、貸して」
呆れて私が肩にかけてたタオルで拭ってやると、大和は大人しく体を屈める。
「甲斐甲斐しいな、さっちゃんは。大和の嫁に欲しいくらいだ」
「んー、おじさんの養女ならいいよ?」
「そりゃ、真盾【マタテ】と伊織【イオリ】ちゃんに恨まれるから無理だ」
からからとおじさんは笑うが、あの両親だからあっさり許可すると思う。むしろ本邸の祖母達が赦さないだろうけど。
「ほら大和、拭けたよ」
重たげに水を含ませていた髪は、本来の柔らかな軽さを取り戻しつつある。後は自然乾燥でも十分だ。
「サンキュー、サク」
大和は犬みたいに軽く頭を振り、髪をかきあげる。
ちょっとした悪戯心で髪を引っ張れば、何を思ってか、おじさんも手を伸ばしていた。
「いいなー、大和の髪」
「さっちゃんも思う?羨ましいよな」
「うん、ふわふわなのが。おじさんは?」
私は直毛でクセも付きにくいから、髪をいじってもつまらない。
だから大和みたいなくせ毛は羨ましいが、おじさんは違った。
「おれの美和【ミワ】とおそろいだから」
ああ、大和の髪質は色も含めておばさん似だ。それが羨ましいのか。
もしかして、今のはノロケ話だったのか。
「なぁ、どーでも良いけど、もう離してくんない?」
ずっと腰を曲げたままだった大和が、体勢の辛さを訴えたのは、おばさんが夕飯の開始を告げるのと、ほぼ同時だった。
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