1人が本棚に入れています
本棚に追加
小さい頃から、桜の花が嫌いだった。
自分と同じ名前の花というだけで、気に入らなかった。
雨や風に弱くて、すぐに散ってしまう儚い花。
そんな弱さが嫌いだった。
‡ † ‡ † ‡
「あ゙ー、めんどくさ!」
私の隣で、幼なじみの大和【ヤマト】がぼやく。
「なんで俺らがワザワザ就任式と入学式にでるワケ?勝手にやってろってなぁ」
その意見には同感だったが、私はiPodから流れる音楽を聴くだけで、反応なんてしなかった。
春先のやや冷たい風が吹けば、学校へと続く桜並木の花が舞い落ちてくる。
私は花弁を振り払うように、長い髪をかきあげた。
大嫌いな桜。この高校に入学したおかげで、満開の桜並木を通るのも三年目。
今年卒業だけれども、全く未練も思い出もない。
ただ友達とくだらない話をして、学校帰りに寄り道して、授業中に居眠りしたり、たまに遅刻したりと、ありふれた日常生活が繰り返されていただけだ。
今日もまた、同じような事をしている。
「なぁ、サク。これって遅刻じゃね?サボらん?」
「やだ。また去年みたいに生活指導に怒られるもん」
大和は「あー」だの「うー」だの呻きながら、だらだらと私の半歩斜め後ろを歩いている。
だまって歩けないのか、この男。
「なぁ、サクラは卒業したらどうすんの?」
「さぁ?なるようにしかならないでしょ」
今年高校三年生でありながら、進路は全くの未定。ついでに大和も。
いや、大和は家の仕事を継ぐかもしれない。
そんな事を考えていると、桜並木の中に、私たち以外の人影を見つけた。
生徒にしても教師にしても、遅刻ギリギリの中でのんびりと桜を見上げている変な男だ。
少し背の高いシルエットの人物は、私たちに気付いたのか、横目に視線を投げた。
最初のコメントを投稿しよう!