桜吹雪

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 大和と二人、くだらない話をしながら教室へ入ると、無人と思われていた室内には、一人の男がいた。 「あ、新任だ」  大和は無遠慮に指を指す。彼は少し肩を竦めた。 「初日からサボりは感心しませんよ。要大和【カナメ ヤマト】君、華桜院桜【カオウイン サクラ】さん?」 「なんでアナタがいるの?」  嫌いな名前を名字付きで呼ばれ、私は眉をしかめる。  だいたい、桜好きの教師という時点で、気に入らない。 「HRにいないから知らないんですね。僕が、君たちの担任です」 「マジかぁ」  感想をもらしたのは大和。私は無視して、自分の机に置いてある鞄を取った。 「帰ろ、大和」 「えっ、おいサク!」  大和も慌てて鞄を掴み、教室を飛び出す。 「センセー、さいならぁ」  律儀なことに挨拶までしている。 「はい、また明日。気をつけて帰って下さいね、要君、華桜院さん」  私はその言葉の余韻が消えるよりも早く、階段を駆け降りた。  ‡ † ‡ † ‡ 「なぁ、サクー」  帰り道、大和がダルそうに口を開く。 「さっきから、なんで早足なわけ?つか、機嫌悪いな」 「気のせいでしょ」 「いーや、絶対違う!」 「気のせいだってば!」  話している間にも速度は上がり、今では競歩並みのスピードが出ている。 「サクぅ、マックは?」 「いい、家で食べる!」  やっぱり機嫌悪いしと、後ろで大和が呟いた。  機嫌が悪いのは確かだ。あの教師に苛立っている。  桜が好きで、私を大嫌いな名字で呼ぶ男。何より気に食わないのが、笑顔だ。 「あんな顔するなら笑うな」  ぼそりと呟いた言葉は、大和には聞こえなかったようだ。  あの教師は、作り笑いばかりしている。小さい頃から見てきた、大人の嫌いな笑い方。  あの教師は、嫌いな人間に部類されるかもしれない。そう思った。 「サク、待った!ストップ!!」 「何!?」  腕を掴まれて、不機嫌丸出しで振り返れば、大和の顔は予想以上に近くにあった。頭突きをする半歩手前くらいに。 「マンション、ここ。お前、どこまで行くきだよ」 「…………」  何も言えず大人しくなった私を、大和は手を引いて中へ入れる。  大和とウチは隣同士なのだ。  もっとも、私は要家に入り浸るので、自宅はほとんど寝るためにしか帰っていない。  自分を待つ人のいない家は、居づらいから。
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