1人が本棚に入れています
本棚に追加
私の両親は、二人とも海外にいる。
五歳の春に父親が海外赴任し、十歳の春には母親も父の後を追って行った。
旧家である華桜院家は京都に本邸があるが、私はそこが嫌いで、十歳から京都を出て、一人暮らしをしている。
両親も、昔から付き合いのあった要家の隣ならと許してくれた。
一人暮らしと言っても、子供だから、住み込みのお手伝いさんがいた。けれど、他人と空間を共有するのが嫌で、中学に上がる頃には追い出していた。
それからは、ずっと要家の人が色々と私を気にかけてくれている。
私も要家の雰囲気は好きで、本邸や自宅よりもずっと落ち着けた。
‡ † ‡ † ‡
私たちが要家の扉を開けると、大和の母親が出迎えてくれた。
「お帰りなさい、大和、さっちゃん」
「はいはい、ただいま」
「珍しいね、おばさんがこんな時間に家にいるの」
料理教室の講師をしている彼女は、平日の昼間は家にいないはずだ。
「今日は特別休講なの」
「なんか良い匂いする。母さん、何か作ったの?」
おばさんは、丁度昼御飯を作っていたらしい。
メニューは五種類のサンドウィッチと冷たいスープだ。
「昼飯食わなくてラッキーだったな、サク」
「そうね。おばさんの料理が一番美味しい」
心からの笑みを浮かべて言えば、彼女は照れたように笑う。
「やーね、さっちゃんったら。お世辞上手なんだから」
「お世辞じゃないよ。本当に美味しい」
本邸にいた頃のプロの料理も美味しかったが、型通りの料理よりも、心が感じられる料理の方がずっと美味しい。
おばさんの料理は、私にとっての『母の味』だ。実の母親は、私のために料理なんてしてくれなかったから。
「なぁ、母さん。俺たちは部屋で食って良い?」
「良いけど、ちゃんと食器は下げてね。さっちゃん、今日は夕飯食べて行ってね。泊まっても良いのよ」
「ありがとう、食べるよ」
にっこり笑ってから、私は大和の後に続いて彼の自室に入った。
最初のコメントを投稿しよう!