桜吹雪

9/12
前へ
/12ページ
次へ
 おばさんが用意してくれた私用と大和用のサンドイッチ二皿は、些細な違いがある。  私は刺激物が嫌いだから、私に渡されたサンドイッチにはカラシ不使用なのだ。 「おばさん、はじめから私が来るって思ってたのかな?」  タマゴサンドを食べながら首を傾げる。  要家で、サンドイッチのカラシを嫌う人間はいない。  明らかに家族以外の人物用に作られた物だ。 「さぁな。ま、サクが来るのが楽しみだからさ、あの人」 「ふぅん」  少しだけ、嬉しい。  まるで家族として受け入れられたかのような錯覚をする。 「そういやさ、サク。お前卒業したらどうすんの?」 「んー、わかんない」 「親の後追って留学とか、本家に帰る予定とかあるのか?」 「ないよ。嫌だもん、そんなの」  私は両親も本家も大嫌いだ。  華桜院の名も権力も財産も要らない。自由になれるなら、そんなもの全部棄てる。  ただ、本家はそれを赦さないけれど。 「んー、お前も大変だよな」  スープを飲みながら、大和が頭を軽く叩いて撫でた。  私は素直にそれを受け入れる。 「大和が、私の家族ならよかったのに」  そしたら、きっと。  大和は少し目を丸くしてから、悪戯っぽく笑った。 「なんなら俺の養子になる?」 「私のが3日年上だもん。無理でしょ」 「じゃあ、ウチの子になれ。半分以上そうだけどな」  二人で顔を合わせて笑った。  本当に、ここは居心地が良い。  食事が終わると、大和はベッドに背中を預けて、その辺から適当に雑誌をとって読む。  私は、定位置である大和の膝に頭をのせて寝転がり、ケータイをいじる。  その内に寝てしまう私を、大和がベッドの上に運んで寝かせてくれるのが、いつものスタイルだ。  どうにも心地好くて、つい睡魔の誘惑に負けてしまう。大和も、私を寝かしつけるかのように頭を撫でたり、ポンポンと軽く叩いてくれるものだから、余計にだ。  友人とも幼馴染みとも、勿論恋人とも少し変わったこの曖昧な距離感が、私は好きだった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加