―文化祭前夜―

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「翔、いいの?」  中庭の木に隠れ様子を窺っていた通明は意外そうな顔をしている。  翔がここまで簡単に退き下がるのは、付き合いの長い通明にとってもかなり珍しい事であった。  かてて加えて、あの少女はまさに翔の好みの典型とも言える容姿をしている。  しかし、 「まあ見ていろ」  翔は至って余裕のいでたちである。まるでこの世に自身の脅威となり得るものなど塵程も存在しないかの様に。 「見てろって、何を――」 「ちょっと待ちなさいよ!」  通明が言い終わる前に、高く澄んだ声が吹きわたる。 「あ」 「ほらな」  校舎の陰から小走りで駆け出てきたのは一人の少女。  小柄な体躯と、それには明らかに不釣り合いな胸の膨らみ。 「やっぱり教えて、希望の居場所」  カリンであった。 「フッ」  翔の勝ち誇った様な笑みに、内心ムッとしつつも、カリンは翔を見上げる。 「いいでしょ別に。一人じゃつまんないんだから」 「ならここに、手頃なハンサムが一人。いかがかな?」  翔は優雅に一礼し、手を差し出す。
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