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身体を差し出し里を守ったイケニエをバケモノと罵りたるは、同里の愚民。
天(ハタ)からみれば、余程貴様等が悪だと言えように。
イケニエを捧げる種族。
自らの安穏だけを求め、他人を省みることはない。
そこに信頼は生まれず、生ずるは同族意識のみ。
仲間ごっこでイケニエをいたぶり、神が笑うことにも気付かずに。
そう、イケニエは神の身代であり、イケニエを貶るは救うに値しない。
何処かの誰かの嘲笑が、今夜も里に響いてた。
「フッ」
静かに、青年が笑う。
横にいる少年も喉を鳴らした。
「皮肉なものだ、日々罵りたうバケギツネがこの里の守り神……暗部狐碧とはな」
「人のこと言えないでしょ、神の御手(ミテ)さん?」
青年がひとりごちると、狐碧と呼ばれた少年は笑い返す。
狐碧とは、暗部第0部隊隊長、すなわち暗部総隊長である。
そして神の御手と呼ばれるのは紅赤という青年。
彼は九尾のチャクラが具現化したもの。
この里は、忌み嫌っている者にゆって安寧を保たれているのである。
知らぬが仏とはよく言ったものだ。
彼等に真逆の贈り名を捧げたのだから。
「この里はアイツの形見だから、俺は守り通す。だから紅赤、その後はお前の自由にしてくれ」
「なら我も守り通そう。主が死つる後も再度この里を襲うことはない」
月が浮かぶ星空の下。
里の明かりを屋根より見下ろしながら、二人は私語(ササヤ)き合う。
儚い約束だが、それが違わる日が来ることはない。
神の嘲笑は里人に向けられたものか、それとも自らに向けられたものか。
どれだけ罵られようと、彼等は此処を守り続ける。
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