さん

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 都会の喧騒から忘れられた静かな村。  50件程の民家が軒を連ねるだけの、ひっそりとただずむ村。  時代の流れに置いてきぼりをくった村。  廃れただけの、村とも呼べない集落が薺達を待っていた。  周りの山々が醸し出す、柔らかな雰囲気に包まれながら集落へと入ると、一遍して、村は陰気な 様相へと変化を遂げた。  車が進む程に、廃墟となった家がぽつりぽつり目立ってくる。  ぐねぐねと曲がる道を進み、ゆっくりと車が村の中心部に侵入していく。  軒に並ぶ家々は、まるでよそ者の侵入を拒むかのように、雨戸をぴたりと閉じて、しんと静まり返っている。 「こんなに陰気臭かった?」  母親が叔父に問い掛けている。  薺も小さい頃、祖父の葬式で来て以来の集落に眉を潜める。 (こんなんやったかな?)  もう少し集落全体に活気があったように思うし、葬式のためか人の出入りも賑やかだった。
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