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ギルバートは目を丸くして、
「本当にか?」
「えぇまぁ」
なぜか非難されているような気がしなくもないが。気のせいかなぁ。
ギルバートはしばしの間、無精ひげの生えたあごをさすったのちに低い声で言った。
「ならこれも何かの縁だ。帰る道すがら、お前に少しだけ話をしてやろう。彼女の状況と──なぜ彼女が適合しているかをな」
消去技術者(イレイズプラクティショナー)は不敵に笑ってそう告げた。
コツコツと靴音が誰もいない廊下に反響する。
ギルバートには以前よりもさらにやつれた印象があるが、それも激務のせいかもしれない。もしくは慣れない異国の地にいるからか。どちらにしても僕にはあまり関係ない。できれば会いたくもない人物のうちの1人なのだから。
「あのう……いったいどこまで行くんですか?」
先ほどからずっと沈黙が続いており、どうにも耐えられなかった。しかし、一歩先を歩くギルバートは何も話そうとはしない。
徐々に気が苛立ってくる。話してやると言ったくせにこの態度。いや、別に大して気にはならないし、どちらかというと聞きたくもないのだけど。
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