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「本当ですかー? 昨日から元気がなくて香月さんと心配してたんですよー」
え、そうなのか?
香月のほうを見た。香月は目線を僅かにそらして、小さく首を振った。
「ご飯だって元気づけるのにするか、お腹に優しいのにするかで悩んでたんですよー」
ただ仲が悪いと思っていたけど、彼女は彼女たちなりに心配してくれたのか……。原因は僕だったのか。人々の喧騒のなか、両肩が軽くなったような気がした。
「ありがと。そうだ、昼は僕がおごるよ」
気のせいだろうか、冥さんと香月の目が夜の猫よろしく不敵に輝いたような気がした。平たくいえば激しく嫌な予感がした。
「じゃあお昼はー」
「どこかの高級レストランででも」
本来聞こえるはずがない血の気が引いていく音を、僕は確かに聞いた。
「待て! それはなし! それはなしだからっ!」
この人ごみで彼女の姿を見れたのは偶然かもしれない。もしくは必然か。
思わず僕の足は止まってしまった。見慣れているいつもの姿とは違っていたため、一瞬誰かわからなかった。
だけど、あの人はどこからどう見ても……。まさかあの時の声も彼女のものなのか。
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