第48話 天使と椎名

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 統合幕僚長先崎一郎が重い口を開いた。事実上の自衛軍のトップである。 「それはもちろんですが……市民の避難はどうするおつもりですか? それに説明も」 「海自と中央即応部隊を用いて近畿地方に強制避難させる。首都が戦場になると知ればまず残る者はいないだろう」  とうてい納得できはしない。彼らは元よりこれがスィエルとの戦争において、想定されていたとは知らない。しかし、知る必要がないと言われればそうである。彼らが軍を動かしているのだから。  榎本陸将は苦虫を数匹まとめて噛み潰したかのように顔をしかめた。 「それが決定なら小官は同意するしかあるまい。だが」  榎本陸将は言葉を続ける。 「特A機密を置き去りにされても困る」  本来聞こえるはずのない、誰かの息を飲む音が大きく聞こえた。榎本以外の前線指揮官たちは意味がわからないのかして、ひそひそと小声で話し合う。  それとは対照的に、先崎統合幕僚長や酒井健二方面総監たちは石化してしまったかの如くピクリともしない。無論、一部の上級役職の者にしか知らされてなかったのは見るからに明らかだ。 「はて……特A機密とは?」
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