第49話 陰謀と二重奏

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 うーん、そろそろ帰ろうかなぁ。明日も忙しそうだし。根性なしとは言うなかれ。  帰ろうという決意が徐々に固まっていき、それを実行しようかと考えていたそのとき──狙っていたとしか思えない。  微かな物音と聞こえるはずのない幻聴を聞いて、僕はゆっくりと振り向いた。  聞き慣れたその声。モデルも羨むその体型。艶然としたその笑み。初めて会ったときより丁寧になったその言葉遣い。そして美の女神が嫉妬してしまうその容姿。  思わず呼吸を忘れてしまった。  彼女の周りだけ輝いて見えるのは気のせいではないかもしれない。 「久しぶりね、春日一尉──」  頭がクラクラしてきた。まさかあんただったのかよ……滝野梨絵二尉。滝野さんは色違いの黒を基調とした軍服を着ていた。 「お久しぶりです、滝野さん。あと階級章見えます? 三佐ですよ」  内心の動揺を殺して、いつもと変わらない平然を装う。 「あら、昔のクセでつい」 「そういえば、部隊の解散以来ですしね。冥さんなんか今でも間違いますよ」  妙な違和感がふつふつと沸いてきた。滝野さんのどこか生彩に欠けた笑顔。そして手が届きそうで届かない微妙な間合い。
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