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ふと、私は席の後ろにある全面ガラスを見つめた。
最上階から見えるきらびやかで鮮やかな都会のイルミネーションに、人知れず見入っていた。
「綺麗な夜景…。」
「この店を選んだのは、俺なんだ。」
私は小さく微笑むと、外を眺めながら一層薫る赤ワインを口に添えた。
「…俺は、こういう方が好きだな。」
悠貴がふと、口からこぼれるように呟いた。
私はようやくガラスから目を離し、横にいる彼を虚ろに見つめた。
自分と同じような表情で外を見つめる彼に、自然と笑顔がこぼれた。
「あっ…今日、星が多いっ。」
「こんな都会の中心で拝めるなんて、ラッキー。」
無邪気に私達は笑い合った。
ネオン街に微かに浮かぶ星を二人は、子供のように指を使って話した。
お互い星座のことはよく知らなかったが、なんだか不思議と会話が弾んだ。
私は、お洒落ディナーに浸る落ち着きを好んでいた。
その空気に周りとは完全に浮いていたのに、悠貴は嫌な顔一つ見せずに話をかけて楽しませてくれた。
改めて、合コンの場所でこんな私はおかしいでしょう…と口に出すと、悠貴は言葉の代わりに安心させるような心地を示してくれた。
それからしばらくして、すっかり上手くいった合コンに、皆は愉快に店内を後にした。
入口の前の廊下で、化粧室に行った結衣と桜を待っていた。
待ちくたびれながら酔っている海は、カラオケに行こうと騒ぎ出した。
お互い酒に強く、全然酔っていない私と悠貴は顔を見合わせた
。そして、どうやってあしらおうか…と耳打ちされた。
つい顔が熱くなっていると、悠貴はその髪に柔らかく手を触れ、滑らした。
甘い雰囲気に浸った私は、今なら酔った勢いということで彼の胸に飛び込める、とさえ思えた。
きっと…そうしていただろう。
「おい、悠貴。お前、帽子忘れてねー?」
すかさず、悠貴は私から離れると自分の頭に手をやって、あっと声を上げた。
つい笑ってしまい、彼はおもむろに罰の悪そうな顔をした。
笑い終えた私の前に、両手を合わせて言う。
「俺、肝心なときに抜けてるんだ。待ってて。」
「待ってる。」
悠人は爽やかに、駆け出して行った。
私は、自分が口走った深い言葉に内心驚いていた。
酒に強い私でも若干酔ってるのかと、ほてっている顔に両手を触れた。
酔っているなら、幸運かもしれないとさえ思った。
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