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「――ッ!!」
息が荒い。
暑さからではない嫌な汗が、私の体を覆っている。
遮光カーテンから漏れてくる陽光がまだ弱いことから、今の時間が早朝なんだということがわかる。
――ダメ。
やっと、忘れかけていたのに。
やっと、心が満たされてきたのに。
やっと、温もりを思い出していたのに。
私を闇の中に引きずりこまないで……!
また、私を翔から引き離さないで……!
――殺人事件。
犯人の痕跡も、目撃情報もまったくない。捜査は困難なんだって、警察の人たちが話しているのを聞いてしまった。
なんで、また――
「舞ー」
「! ……翔」
目の前で私の名前を呼んでくれる大切な男性(ひと)――翔の寝顔が、また私を光の世界に戻してくれる。
あのとき以来、私の名前を寝言でも呼んでくれているってことは、私のことを少しは見てくれているのかな?
無性に翔の温もりが愛しくなった私は、ゆっくりと翔の胸に顔をうずめる。
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