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「和馬、大丈夫か!?」
「じい…ちゃん?」
目を開けるとそこには、心配そうに彼の顔を覗き込む祖父がいた。
「心配したぞい。玄関を勢いよくあけて今にも泣きそうな瑞希ちゃんを見たときにゃ」
時間はあれから一時間くらい。日はすっかり沈み彼は自分の部屋にいた。手には夢の中でつかんだままの手袋を持っていた。
「じいちゃん…瑞希は?」
「いま、風呂に入っとる。覗きに行かんよう見張っとるんじゃ」
「んな気力無いよ…」
和馬は打撲やら切傷やらで痛む体を起こし祖父の淹れたほうじ茶を飲んでいた。
「痛…口の中まで切ってる。」
「なぁんで、お前はあんなところ登ろうとしたんじゃ?滑ったらまっ逆さまに決まっておるだろ?」
祖父の問いに答えを出せない。夢とも現実とも区別のつかないあの場所、一体なんなのだろうか。
すると、扉の外を人が近づいて、部屋のドアをあけた。そこには、瑞希が立っていた。
「良かった…和馬が‥グス…死んじゃうんじゃないかって…グスッ思ったら…怖くて…グス」
瑞希の目は既に赤く腫れ上がっていて、ここに来る前に相当泣いていた事を思わせた。
「瑞希…ごめん…」
和馬は瑞希の目を真剣に見ていった。彼女を安心させるために…
「もう…本当に心配させないでよね!!…でも、本当に…本当に良かったぁ…」
彼女は安心しきって心にためた涙のダムが一気に決壊してそこに泣き崩れた。
その日から…あの大樹の夢は見なくなった。
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