=勝沼= 世界の片隅で…

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豪一とエリカは施設を出て、車に向かっていた。なんとなく気まずい雰囲気の中、2人は車中の人になり。車は中央自動車道を西に進んでいた。笹子トンネルを越えると山梨県に入る。 風景は果樹園が多く見受けられる景色にかわる。やがて、車は勝沼インターから下道に降りた。山梨県甲州市勝沼、轟豪一が産まれた土地である。 「本当に田舎ねぇーっ、見渡す限り、畑や果樹園ばっかりじゃない」 「あぁ、俺の実家はブドウ栽培農家だからな、生食用と葡萄酒用の二種類を栽培してる」 「葡萄酒も、造ってるの?」 「いや、造ってねぇな、組合に出荷して、そこが醸造するんだ」 勝沼は江戸時代から甲州葡萄や梨や柿などの果実の栽培が盛んであった土地柄だ。甲州葡萄は、「和漢三才図絵」などの地誌において、甲州特産の果樹の総称である「甲斐八珍果」の一つとして挙げられている。 しかし、現在の甲州ワインを産み出す素地が出来上がるのには、明治時代まで待たなければならない。轟家も本格的な葡萄栽培に着手したのは、豪一から六代前の祖父が始めたものだった。
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