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「おい、夏美、勘違いしてないか?」
「もうーっ、豪兄ってば、照れちゃって!!」
夏美の肘鉄を豪一は、迷惑気味にあしらいながら、襖の奥の気配を伺っていた。やがて、カラリと襖が引かれエリカが姿を現す。
襟付きのノースリーブとデニムパンツのすっきりとした出で立ちのフォルムが夏らしい装いを醸し出していた。夏美と豪一は、その清楚な中にも流麗な美しさに息を飲んで見つめていた。
「あら?、2人共どうしたの、ポカンとしちゃって?」
エリカは、2人を不思議そうに見つめ、小首をかしげている。我に返った豪一は、少し照れくさそうにエリカに返答する。
「お、おぅ、少尉殿の姿に見とれてなぁ……」
「なぁに、そんなに私服姿が珍しいかしら?」
エリカは、少し不満気に豪一に答える。豪一が普段、目にするのは米陸軍の迷彩服姿の彼女ばかりだ、私服姿は渋谷の時以来だったからだ。
「はいはい、お二人様、ごちそうさまです」
夏美が豪一とエリカの間に入り、手のひらを叩いて会話を遮る。その夏美が親指を示す先に、おばちゃんの集団の存在があった、中心に居るのは、豪一の母親、響子(きょうこ)だった。
「豪一、いつ帰っただ?」
「おぅ、お袋、ちょっと前にな……」
さすがに母親の前だと、豪一も子供だ、いつもの豪放磊落な振る舞いも控えめになる。幼い頃に母親を亡くしたエリカには少し嫉妬にも似た感情が沸き上がってきていた。
「初めまして、轟二曹の同僚で、エリカ=ビルシュタインと申します。今日から、しばらくお世話になりますので、よろしくお願いいたします」
エリカは腰から上半身を90度位まで下げる、深々としたお辞儀を豪一の母親に返した。
「あらあら、そんなにご丁寧に、こちらこそ、こんなむさ苦しい田舎ですけど、ゆっくり休んでくんさい」
響子は、農家の婦人らしい日焼けした顔を綻ばせ、白い歯を見せながら、エリカを労うのだった。
「夏美、はよぉ、お風呂の用意をしんしゃい、お客さんに、入ってもらわんと、お父さんには、私から言っとくけぇ」
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