=勝沼= 世界の片隅で…

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豪一の母、響子の後ろに控えていたのは、近所のおばちゃん連中だ。豪一は、その姿を確認した瞬間、心の中で舌打ちをしていた。恐れていた一言が、おばちゃん達の口からミサイルの如く撃ち放たれた。 「その娘さんが、豪ちゃんの嫁さんかいなぁ?」 「あれぇ、えらい別品だがぁ、人形さんみたいだぁ」 「立派な体格だけぇ、よう働きんさるだがぁ」 おばちゃん達の口から次々と放たれる、言葉のミサイルは豪一の心を震えあがらせる。しっかりとつぶった瞼を恐る恐る開け、エリカの顔を伺う。 (ヒャーァ、もう勘弁してくれーっ、少尉殿に撃ち殺されるぜぇ……) 心の中で力の限り叫んでいた豪一は、覚悟を密かに決めていた。しかし、エリカは笑みを絶やさず、その、おばちゃん達と和やかに談笑している。 (おい、おい、どうなって、やがる……、状況が分からんぞ!!) 母親とエリカ、そして、おばちゃん達の会話に入る事もできず、立ち尽くしている豪一に風呂の準備を済ませ、戻ってきた夏美が肩を叩く。 「豪兄、エリカさんスゴイわね……、もう馴染んでるわよ!?」 夏美が驚く程の適応力で、エリカは母親の響子達と意気投合していた。話が長引きそうな雰囲気に豪一は、その場を離れ様とした瞬間、エリカから呼び止められる。しかも、下の名前で。 「豪一さん、近所の方にもご挨拶しないと失礼でしょ?、きちんと、貴方から紹介して頂戴」 この展開に豪一は、目を剥く。信じられない早さで、誤解が既成事実に変化して行く。エリカの役者っぷりに彼は心底、女は恐いと強く思っていた。 (冗談じゃあねぇぞ!!、少尉殿、何を企んでやがる!!) 豪一は心中、困惑しながらもエリカの誘い文句に合わせて、彼女の紹介を始めた。おばちゃん達の視線がレーザービームの様に集中するさまは、豪一にとって針のムシロ以外何物でもない。
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