=勝沼= 世界の片隅で…

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脱衣場から豪一を追い出した夏美はシュロ箒を片手にブハーっと、息を吐く。 「まったく、何してんだか、豪兄は……」 そんな、夏美をエリカは心配気に見ている。美しいラインを描く裸体が微動だにしない姿は西洋絵画のヴィナスの様だ。夏美がエリカの裸に気付いて、急いでバスタオルをエリカに羽織らせると、夏美はペコペコと頭を下げて謝りだした。 「本当にごめんなさい、ウチの兄貴ったら、節操が無くて……」 「こちらこそ、ごめんなさいね。無用心だったわ」 「お詫びに、エリカさんの背中を流してもよろしいですか?」 「えっ!?、そんなに気を使わなくても……」 夏美の突然の申し出に、戸惑うエリカであったが、夏美の勢いに抗い切れず、結局、許してしまった。 2人は、真新しいバスルームの浴槽に浸かり、ほのぼのとした雰囲気の中で語り合っていた。エリカは愉しげに語る夏美に妹の姿を重ねていた。 「へえーっ、エリカさんって、偉いんだ!!、ウチの兄貴をキュっと締めてやって下さいよ」 「あなたのお兄さんは、良くやってくれるわよ」 確かに良く、やってくれる。エリカにとっては、ヤラレっぱなしだったが……。夏美には、豪一が仕事の出来る人だということを伝える事で安心してもらいたいとエリカは思っていた。 「エリカさん、ダメですよ!!、豪兄を甘やかしたら」 「べ、別に甘やかしたりしてないわよ……」 エリカは、夏美にウィンクしながら、明るく答える。そう、甘やかしては、いない……。どちらかと言えば塩対応。しかし、それでも彼はこうして自分の実家にエリカを招き入れ、慰安してくれるのだ。そんな、さりげない気配りに口は悪いが根は優しい人なのだとエリカは感じていた。
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