=勝沼= 世界の片隅で…

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豪三の言葉を聞いた、エリカの箸が止まる。豪一は内心気が気ではない。隣のエリカの表情を伺いながら、彼女の言葉を待つ。 「御父様、これからもよろしくお願いいたしますわ」 エリカはそう言って、一升瓶を掴むと豪三のコップに吟醸酒を注いだ。そして、自らのコップにも吟醸酒を注ぎ満たす。 「御父様!!、私と飲み比べをして頂けますか!!」 エリカは、そう言って一気にコップの酒を飲みほす。豪三も負けじとコップを空にして、対抗した。豪一は2人の飲み比べを、黙って見守る以外に手立てがない。 (親父の酒豪ぶりに、果たして、少尉殿が付いていけるかどうか……」 豪一の、この取り越し苦労は結局、杞憂に終わる。 最後にへべれけになってひっくり返ったのは、豪三の方だったからだ、伊達に、酒豪のロシア人、ナターシャを相手方に持つ訳ではない実力だ。多少は飲める口の豪一さえ、顔色を変える程の飲みっぷりだった。 「豪一、エリカさん大丈夫だかぁ!?、お父さん、結構強いだがぁ……」 心配した、母親の響子が豪一に耳打ちして囁く。彼も思案気味な思惑顔で母親に答えていた。 「まぁ、彼女も自分の限界は承知してるはずだから、大丈夫だろ……」 酒盛りでテンションの上がる2人を、豪一、響子、夏美の3人が呆れて見守る。 「お父さんが、あんなにはしゃぐなんて、珍しいだがぁ」 母親のうらめし気な視線がエリカと豪三に注がれるのを見て、豪一はすかさず、言葉を継いだ。 「すまねぇな、お袋、親父を取っちまったみてぇで……」 「ふふ、何言っとるだぁ、古女房は動じんだがぁ」 響子は、そう言って、豪一の背中を叩きながら笑っている。そんな両親を見つつ、豪一は、ある決意を胸に秘めていた。
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