=勝沼= 世界の片隅で…

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「父さんと母さんが、墓参りよろしくって」 夏美は、2人が果樹園に仕事を行った事を告げ、墓参りに豪一とエリカを連れて行くよう彼女に言っていた。 夏美の軽自動車に乗り込み、エリカは助手席に豪一は後部座席に陣どった。箱形で普通車と変わらぬ高さの車内は意外に広い、大柄なエリカと豪一が乗っても足元は広々としていた。 曲がりくねった山道をエンジンを唸らせて上がっていくと、やがて視界が一気に開け、甲府盆地を見渡せる山の中腹に出た。墓石の集まりが、そこが、おごそかな別世界であることを告げていた。 山門の脇に車を止め、豪一達は、墓石の中の道を歩いてゆく、轟家の墓にたどり着き、墓石を清め、花や線香を手向け、静かに合掌し先祖や故人に冥福の祈りを捧げる。線香の煙に包まれ白檀の香りがまとわりついていく。 「久しぶりに、住職に会いに行くか、2人共付き合ってくれ」
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