=勝沼= 世界の片隅で…

50/60
前へ
/343ページ
次へ
3人は墓地から山門を抜け、寺の境内に足を踏み入れた。結構、大きな本堂の右手に住職の住まいはあった。玄関を引き開け大声で来た事を伝えると奥から1人の若い僧侶が顔を出した。その顔を見るなり豪一は叫ぶ。 「おぅ!!、栄敬(えいけい)、元気そうだな」 栄敬と呼ばれた、若い僧侶も豪一を見るなり、男前の顔立ちを崩して、笑い掛けた。 「久しぶりだな、豪一!!、まぁ、上がれよ、おっと後ろの女性の方々もご一緒にどうぞ」 若い僧侶、栄敬に案内され3人は裏庭に面した客間に案内される。錦鯉が泳ぐ池の後ろは、見事に刈り込まれた日本庭園が展開して、まるで日本画の世界だ。 『豪兄、栄敬さんって、高校時代の……』 夏美の耳打ちに、豪一は頷くと、住職が現れるのを、静かに待っていた。 「おお、豪一君かあ、しばらくだな、元気そうじゃないか!!」 さっきの若い僧侶を引き連れて姿を現した住職は、豪一にそう語り掛け、背中を叩いた。住職は、栄敬の父で名前を、栄俊(えいしゅん)という。彼は床の間を背にして、座卓を対して豪一らに向かい合っていた。 栄敬が麦茶を運んで来て、各人の前に配する。住職の進めで、麦茶をひと啜りした豪一が早速、要件を切り出す。 「和尚、お久しぶりです。ご無沙汰しております。今日は"例の屏風"の由来に付いて、お話を伺いたく参りました」 殊勝な挨拶と態度の豪一に住職の栄俊は、いささか面を食らっていた。 「豪一君、藪から棒に何かと思えば、"あの話し"の事かね……」 「その話しを、彼女にしてやって下さいませんか?」
/343ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加