=勝沼= 世界の片隅で…

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栄俊は語り始める。この地域に伝わる、ある絵師と吸血鬼姫の話しを……。 「時代はそう、平安末期から鎌倉の始めの頃じゃな、京都から奥州に旅する絵師がこの辺りで病に倒れたそうじゃ……」 「絵師は村人の手厚い看病のおかげで一命を取り止めた。」 「その絵師は、お礼にと村中の家々に屏風絵、襖絵、壁絵などを描き残して行った、最後に鎮守の社で描いたのが、あの地獄絵図なんじゃ……」 「別に何と言って、普通の恩返しの話しですね……」 エリカは訝しげな顔つきで栄俊を見やり、首をかしげた。栄俊は再び語りだす。 「その最中に、絵師は社の巫女と恋に落ちてしまうんじゃな、しかも、その巫女は禁忌を背負った身であり決して人と触れる事を許されない立場にあったんじゃ」 「やがて、彼女の秘密を知った絵師はその血の色に魅せられて、彼女と契約を交わす事である力を手にいれたんじゃ……」 「その後、彼は歴史の上を彷徨し、ある時は権力者の居城を飾る絵を描き、またある時は一庶民として下町で名前を変え、住みかを変えて、飽くなき技術と精神の鍛練と追及に明け暮れたという……」 「しかし、その彼も幕末に、忽然と歴史の表舞台から消えさるんじゃよ……」 栄俊の話しが終わり、豪一はエリカの方に顔を向ける。彼は、一呼吸すると、昨晩の話しを始める。 「昨日の晩、少尉殿は例の地獄絵図を何処かで見た記憶があると言っていたな?」 エリカは目をつむり、沈黙の長考に入っていた。周りが息を潜めて見守る中、やがて彼女は頭を上げた。 「思い出したわ!!、パパの会社のCEOの自宅の壁絵がそうだったわ!!」
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