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その日、西暦2050年8月15日、駿河湾を震源地とする大震災が関東、東海地域を襲った。のちに第二次関東大震災や駿河湾大震災と呼ばれる天災だった。
強烈な揺れが2人を襲う、激しい上下動に翻弄され立っていられない、そんななかでも豪一はエリカをしっかりと抱き締め支えていた。
やがて、揺れがおさまるが目の前の駿河湾の海水が沖に向かって引き始めている事に気付いた豪一はエリカに高台に逃げる様に叫んだ。
マグニチュード10.0、震度8、震源の深さは25㎞、震源地は駿河湾沖の日本海溝であった。首都圏の壊滅により、日本は経済、政治、文化活動の停止を余儀なくされた。のちに被害額は、東日本大震災の25兆円を遥かに上回る、70兆円という国家予算並みに膨れ上がったのだった。
必死に高台に向かって走る2人に津波が襲いかかってくる。黒い濁流が渦巻き2人を飲み込み、流れにかき回され翻弄される。
「少尉殿!!、大丈夫か!?」
凄まじい引き波を豪一は岩場の角に左手でしがみついた状態で右手はエリカの右手首を掴んで必死に耐えていた。2人共、沖に流されるのは確実だった……。
「轟二曹、手を離して……」
「ばっ、バカ言え!!、見殺しにしろってのか!!」
「このままだと、2人共、確実に死ぬわよ……」
「しかし……」
「貴方が離さないなら、私がやります!」
エリカはそう言って、義手の部分を一気に解放した。蓮の花の様に弾けた義手は赤桃色の断面を見せていた。エリカの身体が、波に揉まれゆっくりと離れていく。顔は笑っているが、瞳には深い悲しみが宿っていた。
「エリカ!!、てめえは、いつもそうだ!!、自分勝手に物事を進めやがって!!」
豪一の叫びも、荒れ狂う海面にかき消され 、エリカには届かない……、彼女の姿はやがて消え失せた。
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