業火の中で……

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 西暦2050年10月、日本国、小笠原諸島、南硫黄島。うっそうと繁る密林の中で彼は待っていた。 ひたすらに待ち続けた、必ず来ると信じて。  確信に近い自信があった。奴の事は良く知っていた、気持ちが高ぶってくる。暗い空間には、LEDの光りだけが心もとなく灯っていた。 「つれぇ~、寝ちまうぞ」  彼の機体の背中には、五菱製の2000馬力、コモンレール式V12ディーゼルターボエンジンが鎮座している。  この兵器。陸上自衛隊は、アメリカ軍の強い要請により本年度に導入を決定していた。  彼、轟 豪一(とどろき ごういち)は、この機械化機甲歩兵部隊、"特殊機甲科"の創設に伴って、施設大隊(工作部隊)から引っ越抜かれたのだ。  彼はあらゆる重機を乗りこなす凄腕のプロだった。 その自信を打ち砕かれる。そう、奴の存在によって。 「こんな機会は二度とねぇだろな…」 機甲歩兵のコクピットの中で独り言を呟きながら、その"奴"からの連絡を待つ。 しかしこの時、彼は知らなかった、島の反対側では恐るべき事態が発生しつつある事を……。 この島の東方向100㎞辺りに展開するアメリカ海軍の空母打撃群の3次元レーダーは島の上空に発生した空間の歪みを捉えていたのだ。
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