=化身=

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こうした状況の中、豪一は山梨県に災害物資を運ぶ任務を付帯される。地元出身と言う事で抜擢されたようだが、彼はコレに乗っかる事にした。 夏美に連絡を取り、任務の合間を縫って避難所で豪一は夏美と再会する。お盆休みに実家で会った、明るさは今の彼女にはなかった。 「ずいぶん、疲れてるな、しっかり食べてるか?」 「豪兄……」 夏美は、そう言ったきり、言葉をなくした。瞳に涙をいっぱいに浮かべて、顔をぐしゃぐしゃにして、号泣しだした。 豪一は、多少、周囲の目を気にしつつも妹が泣き止むまで、そのまま好きな様にさせていた。 「父さんも母さんも、ダメかも知れないわ……」 「それを、言うな……、必ず会える!!」 豪一は、そう夏美に言ったが、彼自身、両親の行方には絶望的なモノを感じていた、しかし、妹の手前、両親の生存を否定して、彼女の希望を奪ってしまうのは余りにも酷な話しだった。それはまた、豪一自身にも言い聞かせる意味で強気に語ってもいたのだ。 「夏美、明日、規制線内に入る許可を得た、一緒にくるか?」 本来なら、民間人を帯同させる事は出来ないが、調査の名目で妹を付帯する。我ながら、汚い手を使うと豪一は心の中で苦笑いする。 夏美に集合場所と時間を告げ、豪一は足早に避難所を後にする。かつて、PKO海外派遣先のアフリカで見た、難民キャンプを彷彿とさせる雑多な雰囲気と疲れて切った人々の表情と目付き。 日本も今年史上初めて、人口が8000万台になり、かつての国力はない。内閣は相変わらず、国力増強を叫ぶが、地方の疲弊を省みない政策は常に空回りだ。 豪一は軽装甲機動車を運転しながら、被害の状況を把握していた。あの時の渋谷を思わせる風景、血糊がビルや家屋の壁面や屋根に飛び散っている。ギガントどもの好物である人間をむさぼった跡があちこちに見受けられる。 「そろそろ、日本も本格的な戦闘状態に突入ですかね……」 隣に座る、若い自衛官が首をすくめて、冗談っぽく、呟いたのを、豪一は静かに返す。 「覚悟は出来てるんだろ?」 「そりゃ、国の一大事ですから、護る為なら命懸けで任務を遂行しますよ!!」 「ふふ、頼もしいねぇ!!、だが、無駄死には、するなよ!!、俺たち兵隊は生き延びて、ナンボの商売だからな!!」
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