=化身=

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夏美に頼りない事を突っ込まれ、肩を落とす形でがっかりしている本家をよそに、豪一の運転する軽装甲機動車は、彼の実家近くまで進んでいた。 集落中に漂う死の匂い。1ヶ月前には、感じられない殺伐とした雰囲気に豪一は眉をしかめる。彼は本家に89式自動小銃の遊底ボルトを動かし薬室内に弾丸を送り込む様に促す。コッキングと呼ばれるこの行為を行わないとオートマチック、ボルト・アクションの小銃を問わず、弾丸を発射する体勢が整わないからだ。 緊張感溢れる面持ちで、本家は右手に携えた89式自動小銃本体後方の遊底ボルトを左手で後ろに引き送弾を完了する。多分、初めての実戦並みの緊張感に本家の動きは、多少ぎこちなかった。 「そんなに緊張しなくて、いいぞ、一応、弾丸は徹甲焼夷弾を入れてあるから、標的に対して、三点バーストでばらまけよ」 豪一は本家にフルオートで撃つなと、89式自動小銃のセレクトレバーを指差し切り替える様に指示した。いくら小口径高速弾(5.56㎜)とはいえ、フルオートで撃ちまくれば、その反動は拳銃の比ではなく、オマケに弾丸消費も半端ない状態になる。一弾倉、約30発それを1人あたり3マガジン、つまり3弾倉分、100発弱余り携帯し、この現場に望んでいた。 「トリガーには指先だけ掛けておけよ、撃つ時は合図するから落ち着いてやれ」 豪一と本家のやり取りに、夏美は自分がトンでもなく危険な場所に居合わせている事を痛感していた。不安気に豪一の背後から問いかける夏美の姿があった。
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