=化身=

15/38
前へ
/343ページ
次へ
10月初め、ナターシャは在日米軍司令部より横田基地に来る様に命令を受ける。突然の呼び出しにヘリコプターで移動中のナターシャはいろいろと思考を巡らせていた。 横田基地に着いたナターシャを待ち受けていたのは、実験部隊の総司令官、トラウトマン大佐と1人の女性兵士だった。その女性の顔を見たナターシャは衝撃の余り表情を固めた。 「え、エリカ!?、Why?…」 ナターシャは、そう言ったきり絶句する。生きていた嬉しさよりも、再び復讐の道を歩まなければならない過酷な運命に晒される事への哀れみと悲しみが胸にこみ上げてくる。 「た、大佐、彼女は……」 「ああ、オルタネーターの彼女か、済まんな大尉、連絡が遅くなってしまって……」 ナターシャはトラウトマン大佐のその言葉に彼の立場の苦しさを感じた。彼は実直な人間であり、どちらかと言うと不器用な方だが、人たらしな部分も持っていて、ナターシャも上手く乗せられてしまう事もしばしばだった。 そんな彼が珍しく緊張した面持ちでナターシャと対峙している。彼女はエリカについて質問をトラウトマン大佐に投げかけた。 「あの、地震の直後に我々が身柄を確保したのだよ」 そう答えるトラウトマン大佐からナターシャは詳しい状況を聞き出す。大佐の話しによると、エリカは義手の防護能力によって守られ波間を漂っていたらしく、GPS機能が内蔵されていた事で軍事衛星からの探索が出来、米海軍の軍艦により発見回収されたという。 だが、その代償にエリカは記憶を失い、自分が誰であるか分からなくなっていた。もちろん、ナターシャや豪一の事も例外ではない。しかし、皮肉な事に戦闘能力は記憶喪失前の3倍から4倍、条件によっては10倍という、とてつもない数値を叩き出していた。 その話しを聞いたナターシャは、エリカがそれだけの能力を引き出しているのは心の底に潜む復讐と言う名の怒りである事を理解していた。記憶が失われても精神に刻み込まれた傷は容易に癒えない事を示していた。
/343ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加