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トラウトマン大佐から、エリカの身柄を受け取り、ナターシャは木更津に戻る為、エリカと共に移送ヘリに乗り込む。
轟音の響く、機内で2人は一言も交わす事なく並んで座っていた。ナターシャは時々、左側に座るエリカに視線を走らせて様子を伺っていた。そんなナターシャにエリカは語り掛けたのだった。
「先ほどから、私に視線を走らせていますが、何か?」
エリカの突然の問いかけにナターシャは、少し戸惑い気味に答える。
「本当に私の事を覚えていないの?」
「何がデスか、ドフスレンコン大尉」
「私と少尉、貴女は士官学校の同期生なのよ……」
「申し訳ありません、私には記憶が失われていて……」
エリカの恐縮する姿にナターシャは、それ以上の追求を諦め沈黙すると、その身をシートに預け機外に広がる東京湾に目を向けた。
エリカと豪一を引き合わすべきか、ナターシャは瞼を閉じて深く思案する。記憶を取り戻す為には、効果はあるだろが余計な事まで、思い出されて事態が悪化する可能性は否定できない。そんなリスクを背負ってでもナターシャはエリカを豪一と会わせたかった。
同じ男を愛した、女としてエリカの状況を放置して置くほど、ナターシャは冷徹にはなれなかった。何故ならエリカも豪一の子供をその胎内に宿している事をトラウトマン大佐から聞かされたからだ。
ナターシャは、少し膨らみ始めた下腹を軽く擦りながら、エリカの方に視線を移し呟いていた。
(本当に業深いはね、私達は……)
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