=化身=

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木更津駐屯地に降り立ったナターシャとエリカは、豪一の元へと向かう。ナターシャの足取りは重い、豪一も又、復讐の人と化していたからだ。すっかり無口になり、かつての軽妙な語り口は陰を潜め殺気だった雰囲気を醸し出し他人を寄せ付けない。 まさに、闘神の化身と言うに相応しい有り様だ、そんな彼の前にエリカを伴ってナターシャは現れたのだ。 「轟二曹、ちょっとよろしいかしら?」 「ん、ああ、手短に頼むぜ」 かつての彼なら冗談の一言も出る筈のやり取りも無く実に素っ気ない。しかし、そんな豪一も、エリカの姿を見て動揺していた。 「ドフスレンコ大尉、こいつぁ……、夢じゃあねぇだろうな……」 「轟二曹、夢じゃないわ、本物よ……、ただ……」 「ただって、なんだ?、その言いにくそうな口調は?」 豪一はエリカの方を向き、彼女に語り掛けた。 「まったく、無茶しやがって……」 もう、それ以上、豪一の口から言葉は出なかった。ひたすらに嬉しかった、生きていた事がこれほどありがたいと思った事はなかった。しかし、エリカの反応は鈍い、何故、豪一が泣いているのか?、理解できないといった感じの怪訝な表情だ。
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