=化身=

25/38
前へ
/343ページ
次へ
突然、豪一に抱きすくめられ、エリカは目を白黒させて身体を預けていたが、やがて意を決した様に豪一を突き離したのだった。 「何のつもりか、知りませんが、やめて下さい」 仮にとはいえ、かつて肌を許しあった仲であるエリカの口から出た言葉は、豪一を傷つけるには、十分過ぎた。彼の心をミキサーに掛ける様にズタズタにしていく。 「そうか……、すまんな……」 豪一は、そう言うとエリカに悲しげな眼差しを向け、瞳を潤ませた。そんな彼の行動をエリカは理解出来ず首を傾げる。そして、ナターシャは、そんな2人の姿を目の当たりにして、その面持ちに苦渋を浮かべていた。 (はぁ……、どれだけ罪深いのよ、この娘(こ)は……) 軟らかな朝の陽射しの前に闇夜は、かき消されて行く。しかし、3人の心は対照的に暗い闇に覆われていた。
/343ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加