=化身=

27/38
前へ
/343ページ
次へ
「女ってのは、ビルシュタイン少尉のこったぜ」 「ほぅ、あの津波から生きて還ってきた女(ヒト)かい?、運がいいのか、悪いのか……」 豪一は、苦笑いしながら、そう語る豊田整備長を見ながら心で詫びていた。今回の模擬戦で多大な迷惑を掛けている申し訳なさがあった。エリカの回復具合を試したくて、模擬戦を立案したものの、豊田整備長もこの機体のヤバさは感じているらしく、五菱重工の社員と打ち合わせを行うたびに難しい面持ちで帰ってきては、整備士のメンバーと機体の調整について連日、夜遅くまで話し合っていた。 豪一の提案に乗った形の米軍だが、彼からの発言を待っていた節があるらしく、豪一の発言に素早く反応して、大規模な部隊を編成し富士山の裾野に展開していた。自らの利益を確保する為なら恥も外聞も無く強引に物事を押し進めるやり方は、いかにもアメリカらしいスタイルだった。 模擬戦開始まで時間の無いなか、整備士のメンバーは手際良く、機体を仕上げていく。ミサイルポッドをマウントし、120ミリ砲に給弾し、ディーゼル燃料を補給する。1時間程でほぼ仕上げてくる技術力は相当の手練れが揃っている証拠にほかならない。 午前8時、豪一の機体は、自衛隊側のメンバーに見送られ、模擬戦の主戦場に向かう。後方にあたる場所で大型トレーラーの中に設けられた、後方支援用のオペレーションルームで、ナターシャを筆頭に豊田整備長、桃園2等陸士、五菱重工の社員達がそれぞれのディスプレイモニターの前に陣取り、画面を見つめている。中央部分の一際、大型のディスプレイモニターには、監視用ドローンからもたらされる映像が映し出されていた。
/343ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加