=化身=

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模擬戦から数日後、座標上の位置が特定された事をナターシャが知らせてきた。 「場所が分かったわ、小笠原諸島、南硫黄島よ!!」 東京から離れる事、1200㎞の太平洋上にあるこの島、アノ玉砕で有名な硫黄島の南に位置する無人島だ。現在は日本国政府の直轄管理下にあった。 「そんな、絶海の孤島にナニがあるんだ?」 豪一の問いかけに、ナターシャは声を潜めて彼の耳元で囁く。 「この島は、世界で初めてギガントが出現した場所よ……」 「元の鞘に戻ったって訳か……、最終決戦の舞台にはおあつらえ向きだな」 豪一は、ニヤリと笑みをこぼしながら落ち着いていた。もうここまでくると、ジタバタしても始まらないといった感じだ。 「何か、うれしそうね?」 ナターシャは、そんな豪一の態度に疑問を感じて、思わず問いかけていた。切羽詰まった状況の筈なのに余裕すら感じさせる雰囲気が漂っていたからだ。 「焦った所でろくな結果は、出ねぇ、出来る事を確実に積み重ねて行くしかないのが正直な所だな……」 あれから、横浜で機体を受領し木更津に荷揚げして、調整を続けていた。エリカが予告した日まで幾ばくもなかった。 「最終調整は、島に向かうフネの中で行うわ、ウチ(米軍)を通して、海上自衛隊の艦船を手配したから、木更津港にてチームごと乗船するわよ」 ナターシャは、そう言って踵を返した。少しずつ下腹がせり出してきている体つきは母親の生命力をたたえて逞しささえ感じる。そんな彼女の後ろ姿を見送りながら豪一は、この世界を護る決意を固めていた。 (相手を殺すって事は、相手に殺されるってことだからな……、それなりに腹を括っていかねぇと、心が殺られちまうからな……) 彼は自らが、今からやろうとしている行為の愚かさに自嘲するしかなかった。人類の未来を護る為に惚れた女を殺す愚行に走ろとしている自分の姿を。
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