=堕天の島=

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そのフネは、東京から離れる事1000㎞の洋上を航行していた。強襲揚陸艦いなば。海上自衛隊、たじま型強襲揚陸輸送艦の4番艦だ。 満水排水量4万6000トン、全長260、3キロメートルの巨体を誇るフネだ。この艦船の元になったのは、米海軍のアメリカ級強襲揚陸艦だ。ウェルドックと呼ばれる内臓型の収納場所を持ち、LCACエアークッション艇を格納し、大型エレベーターと耐熱ヘリ甲板を備えた最新型だった。同型艦は、ネームシップの"たじま"を筆頭に、"ほうき"、"いわみ"、が就役していた。 その内の2隻、"いなば"と"たじま"が今回の任務に随行していた。そして、豪一達はいなばの艦内で機体の最終調整に余念がなかった。飛行甲板の一つ下、ハンガーデッキでは、木更津港から積み込んだ特殊機甲科の機材で一杯だった。 いなばの乗務員達が遠巻きに見守るなか、豪一達は、やはり黙々と作業を続けている。その豪一に近づいてくる人物がいた。海上自衛隊の白い制服に日焼けしたがっちりとした体格を包み、良く整えられたヒゲ面に笑みを浮かべていた。 「おぉ、元気そうだな、轟二等兵殿!!」 「あん!?、俺は二等陸曹だ!!」 豪一は自分の階級を間違えて言う人物に顔を向けて、文句を言い掛けて笑いだした。その人物とは、このフネの艦長、植村直通(うえむら なおみち)一等海佐だった。 「直(なお)さん!、直さんじゃないですか!!」 「噂は聞いてるぜ!!、出世したもんだな二等兵殿!!」 植村艦長はうれしそうに、豪一を抱き締めると、そのゴツい手でその背中をバンバンと叩き上げる。 「直さん!!、痛い、痛いですよ!!、おっさんに抱き締められても嬉しくないっす!!」 豪一の声に植村艦長は、すまなさそうに身体を離すと再び顔を合わせ笑いあう。豪一と植村は3年前、国連PKOで共にアフリカに向かう輸送艦おおすみで出会っていた。もっとも出会いは最悪だったが……。
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