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「あの時は酷かったな……、あれで、俺はフネを降ろされてなぁ……」
植村艦長は懐かしげに、笑いながら話すが内容は決して笑える様なものではない。しかし、彼はそんな事は百も承知とばかりに豪快に笑い飛ばす。艦長という重職にありながらもユーモアを忘れない、この人に当時何度、救われた事だろう。今回も敢えて、この危ない任務を引き受けた事は想像にかたくない。彼はそういう人物であることを豪一はよく知っていた。
「海自も、よっぽど人材不足なんだな、俺みたいな更迭人事を食らった人間に最新鋭艦を任せるなんてよ……」
愚痴ともボヤきとも、取れる独り言を豪一にも聞こえるように話すのだが、あまり深刻気に聞こえないのは彼の人柄からきているのだろ。
「直さん……、失礼しました、植村艦長!!」
「直さんでいいよ、部下の手前まずいが、お前には大きな借りがあるからな……、後で俺の部屋へこい!!」
植村艦長は豪一の耳元でそう言うと、右手でオマケの一撃を豪一の背中に決めると踵をかえした。豪一はそんな植村艦長を見送り、深いため息を付いた。
「あの人も、貧乏クジを引いちまった口だな……、よくよく、俺の周りの人間ってヤツは星の巡りが悪いときてやがる……」
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