=堕天の島=

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植村艦長はグラスを机に置き、天井を見上げる。最新鋭艦だけに、かすかにペンキの塗装匂や接着剤匂が漂う中で2人は沈黙していたやがて、一息付き、植村艦長が口を開く。 「とりあえず、明日中に上陸の段取りは着けてやるよ、各部との調整次第だがな」 豪一は自分のわがままの為に艦長を始めとする艦のクルーに迷惑を掛けてしまう事に心苦しさを覚えていた。それを見透かす様に、植村艦長は意地の悪い笑みをニヤニヤと浮かべ、豪一に言った。 「悪いと思うんなら、立派に結果を出してこい!!、作戦成功ってのが、俺達、軍人にとって一番のご馳走だ!!」 その言葉を聞いて、豪一は表情を明るくする。しかし眼差しには、真剣な光に満ちていた。豪一の目付きに何かを感じ取った植村艦長は、次の言葉を待っていた。 「植村艦長、俺に何かあっても、絶対にフネを島へ近づけないで下さい……」 「最初から、そのつもりだ!、"君子危うきに近寄らず"だからな乗員を危険に晒す訳にはいかんよ」 それを聞いて豪一は、ホッと安堵の表情を浮かべたがその後の植村艦長の言葉が彼の心を締め付ける。 「行くなと言われりゃ、行きたくなるのが人ってもんだ、心配するな骨は拾ってやる……」 そう言うと、彼はグラスにウイスキーをストレートで注いだものを2つ作り、一つを豪一に差し出した。 「古いやり方だが、此が一番、しっくり来るだろ……」 本来なら白盃だが、ウイスキーなのが植村艦長らしいと豪一は思った。
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