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「という訳で、ミスター豪一、覚悟を決めて頂戴」
ナターシャは、腕組みをして豪一に決断を迫る。それは彼女の拒絶を許さない態度の表れだった。豪一は正直、困惑していた有無を言わせない力任せの強引な展開は、アメリカ軍のやり方そのものだ、ナターシャの背後には、巨大な権力という巨人の影がチラついていた。
「NOって選択肢ねぇんだろ、ドブスレンコン博士」
豪一はナターシャをミドルネームで丁重に呼ぶと、右手の平で顔を押さえ笑いだした。エリカとナターシャは怪訝そうな顔つきで豪一を見ている。
「彼、大丈夫かしら!?」
「元々、イカれてんだから問題ないでしょう」
エリカとナターシャのそんな会話を耳にした豪一は、笑いを止めて、2人の方を向いた。
「あんたらの言いなりになるつもりは、毛頭ねぇよ、だがな、"借り"が出来ちまった以上、仕事が終わる迄は協力してやる。ただし、こっちも好き勝手にやらせてもらうがな」
ナターシャは、ホッしたのも束の間、豪一のそんな言い種に反論する。
「好き勝手にやられては、困るわ、これは"軍事機密"なのよ……」
「勘違いするなよ、ドブスレンコ博士、好き勝手ってのは開発過程のこった、目的地は一緒なんだから、多少の行程違いってのはあるだろ?」
その言葉にナターシャは安心した様子で豪一に再度、確認を求めた。
「ここでの会話は"他言無用"、エリカ、貴女もよ!!」
ナターシャの鋭く射る様な視線をエリカと豪一は全身に受けて、硬直していた。
「では、お話は終了致しましたので、お邪魔しますわ。エリカ、行くわよ」
ナターシャは、ビジネスライクな態度に戻ると、エリカを伴って、部屋を出て行く。豪一は一人、白い壁の部屋に漂う2人の甘い残り香と提示された案件の苦さに、この国が置かれた立場を見た気がした。
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