修羅の群れ

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深く帽子を被り目を瞑って沈黙したまま、憮然とした表情で長考を続けるベイツ中将を艦橋のクルー一堂が固唾を飲んで見守っていた。 静かに時が流れ、張り詰めた空気が辺りを支配する。やがて、ゆっくりと顔を上げたベイツ中将は瞳をギラリと光らせ、何かを決意した様な面持ちで艦長のネルソン大佐に口を開いた。 「作戦は継続だ。後、後詰めの艦隊に出撃要請を掛ける。艦長よろしく頼む」 ベイツは心中で政治家生命なぞ、糞食らえと思っていた。人類が滅亡してしまえば政治家に仕事は無いからだ。国民、人間あっての国家であり社会生活である。ヒト亡き世界では政治も何もあったものではない。 ベイツは政治家として生きる為に人類を救う事を選んだ。結果オーライならば、ソレで良しとする計算だ。犠牲は最小限に留めるのが軍人としての彼の仕事だ。もっとも究極のワガママを通したとも言えるのだが。 そして、戦いは新しい局面を迎えようとしていた。ベイツ中将は再び慌ただしくなり始めた艦橋の艦隊司令席に深く座り込み目前の南硫黄島を瞳に映しながら、来るべき事態に対しての備えをどうするか頭に巡らせていた。
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