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「うむ、それは聞かないでくれるとありがたいな」
安住一佐は上目遣いで、それ以上は聞くなという雰囲気を漂わせ、豪一の追求を裁ち切ろうとしていた。
豪一も、安住一佐を困らせてまで聞きだすつもりは、毛頭なかった。ただ、このおっさんは、飄々とはしてはいるが得体の知れないモノを腹の中に飼っている感じがしてならなかったのだ。
「まあ、こっちも大人っすから、追及しませんよ……」
「賢明な選択だな、轟二曹、向こうさん(米軍)とは上手くやってくれ、こっちの都合も考えてな」
安住一佐は、満足気に頷くと豪一の左肩をポンと叩いて、踵を返し出ていく。
その様子を後ろで見守っていた、豊田整備長と桃園さくら2等陸士が駆け寄ってくる。
「安住のオヤジに何か言われたのか?」
「いや、別にたいした事は……」
豊田整備長の言葉に、豪一は、何気に答えながら思案顔で眉間にシワを寄せている。
「轟先輩、大丈夫ですか?」
さくら2等陸士が心配そうに、豪一の顔を見つめる。昨年高校を卒業し、半年の教育期間を経て、この新設部隊に配属されてきた。彼女はまだ、あどけなさを残した顔つきをしているが、その能力は高かった。
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