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「あれ?、その傷は、どうしたの?」
私は、シュミレーター脇で手袋を外した豪一の右手の甲に残る大きな傷跡を確認していた。心拍数が上がる。
「ん、コレか?、ガキの頃の古傷ってヤツだな」
彼は事もなげに答えたが、私には記憶にあった、手の甲の黒子の位置。
「どこで、傷を……」
「えっ、多分、ばあちゃんの所に行った時だったな」
豪一は空を見つめながら、思い出している。そして、ハタっと何かを思い付いたのか、ポンと手を叩く。
「そう言やぁ、やたらと元気なガキんちょが近所にいてな、この傷でそいつを助けたのに、しこたま怒鳴られてな」
豪一は、快活に笑いながら答えたが、この言葉に私は確信した。
「助かった、女の子は感謝してたでしょ?」
「どうかなぁー、オレが病院から出てきた時は、もう居なかったからな……」
神妙な顔つきで語る豪一の横顔を見ながら、私は力強く彼に言い切った。
「大丈夫、貴方が命懸けで助けたんでしょ!!、気持ちは伝わってる筈よ!!」
「何だか、見てたような口調だな、少尉殿」
豪一の突っ込みに私は思わず口をつぐむ、ついつい、感情を先走りさせてしまった事を後悔する。私は少しうつむき、口を開く。
「うん、そう思うのよ、強くね。あんたはバカ野郎だけど、思いは真っ直ぐだから……」
「ちぃ、バカ野郎は余計だ。ほめられてんだか、けなされてんだか、わかんねぇな」
今の私には、上手く言えない。運命ってヤツがあるなら私達は出逢うべき運命になっていたという事だ……。だけど私は、敢えて運命に逆らう事を試みる。ただ流されて、運命に従う事が許せなかったから。
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