日陰の人達。日向のヒトタチ。

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かたかた、と。 センセが黒板に数式を書き並べてく。 内容は・・・嗚呼、それすら解らん。おまけに何が解らんのかという事すら解らん。 数学は苦手だ・・・から。多分今日はこれ以上聴いてても無駄。 仕方無いから外に目をやる。窓際族の特権だわな。 ・・・と、体育の授業中っぽい。 男子女子共にトラック走。 俺の目線は舐めるようにトラックを這ってから、ある一組の男女に向かう。 イマドキの髪型に、髪色。 男子のほうはお兄系?とか言われるタイプの奴。女子のほうも背中ほどまでの茶髪を風に靡かせた俗に言うモテ系。 二人一緒にタオルで汗拭いて。 いちゃいちゃいちゃいちゃ。 「死ねばいーのに・・・。」 喉の奥のほうの声帯で微かに出した音を、これまた口の中で微かに声という形にする。 そう。 嫉妬だ。 「・・・クソ。」 こんな俺の性格を知る輩は大体言う。 ”彼女いるくせに、嫉妬なんかするもんなのかよ?” 浅はかだ。 実に浅はかな考えだ。 ぷい、と。俺は視線を校庭の済に移した。 木陰・・・つか、隣に建ってる家屋のせいでほとんど陰になってるトコに生えた一本の木の下―――。 そこに、ヤツはいた。 細くて長い、膝の裏くらいまであるんじゃねーのって程の黒髪。 黒猫のような細長い目と、人形のもののように繊細な睫毛。 不健康な程に・・・いやいや。むしろ病的な程白い肌が、髪の黒を強調させている。 なんかもう彼女自身の色彩も暗ければ、彼女が居るとこも大体暗い。ともすれば彼女がいる空間そのものが暗い。 ―――御崎、日影。 「みさき、ひかげ。」 頭の中に思い描いた俺の”彼女って事になってるっぽい”人物の名前を、言葉でなぞる。 「死ねばいい、あのアマも。」 何が彼女だ馬鹿野郎。 断固否定する。 あんな暗くて会話もツマンナくて、いつリスカやらなんやらの自傷行為に走るか解らん病んだヤツ。 そんなんが・・・何で。 何で。あんな事になっちまったんだろう・・・。 俺は記憶の糸をたぐりよせる。 ざっと、一ヶ月程前。 俺―――鈴木章利(すずきあきとし)―――が高校二年生になったあの春の日。 俺の前に、一人の黒猫が現れた瞬間まで遡る。
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