日陰の人達。日向のヒトタチ。

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その日は午前授業。 二年になるにあたっての心構えだの、理系文系の選択だの。 そんな在り来りな話が約三時間。正直、興味は無い。進路だってまだ未定のままだ。 最後の一時間は、六月に開催される合唱祭の話だった。合唱祭委員とやらを決めるそうなのだ。当然、しゃしゃり出た竹野が委員になった。 勿論、興味なんてない。 因みに俺は、残りものの「清掃委員」とやらになってしまった。 ああ、忌ま忌ましい。 ☆ 帰り道。 俺は商店街へ続く道から脇へそれ、こじんまりとした一軒家が所々に建つ住宅街へと足を運んでいた。 なんてことはない。こっちが俺の家があるからであって。 ―――決して。 「何なの、お前。」 俺は自宅まで後数歩というところで足止めを余儀なくされる。 なぜかって、お前。 あいつが佇んでいたからだ。 長い黒髪に、無機質な白い肌。輝きを感じないくすんだビー玉のような瞳。 そう、決して――― 俺は昼間の”黒猫”が、こんなトコに居るなんて思いの他だったのだが。 しかし黒猫は喋る。 「周りが光なら、貴方は影?」 何を初めて暗黒小説読んでハイになった中学生の様な事を。 「周りが正しくて、貴方は誤り?」 黒猫が、俺に近づく。 音もなく。さりげなく。何気なく。 確かにそこに居るはずなのに、それさえ疑わしくなるほどに。 霞んだ存在感の黒猫。 俺より身長の低いこの黒猫は、俺を見上げるとその揺るぎない暗い眼(まなこ)で俺を見つめる。 そして、一言。 「濁った眼。」 「・・・はぁ?」 思わず、吹き出しそうになってしまう。 お前が言うか、それ。 暫くの沈黙。冷笑する俺。凝視する黒猫。 非生産的に時は流れ、そして。 「・・・馬っ鹿馬鹿しい。」 黒猫の肩を軽く押し退ける。よろける黒猫。 道が開いたのをいい事に、俺は興ざめしたように帰路へ着き直す。 「貴方は私のような人間じゃない。」 後ろから黒猫の声。しかしどうでも良い。トチ狂った変態のごっこ遊びに興味なんかは無い。 どーせ奴も幸せもんさ。良い家に生まれ、良い教育を受け、きっと今は新しい自分を開拓したくて奇行に走ってんだ。 そんなもんに酔ってられる程、幸せなんだろーさ。 それが証拠に、ほれ見ろ。 さっきは俺を「同種」とか言ったくせ、もうさっきとは真逆の事言いやがった。やっぱ考え無しの妄言か。 鍵を取り出し、ドアを開ける。 俺は振り返りもせず、家に入った。
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