日陰の人達。日向のヒトタチ。

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「ったく・・・」 いくら俺が暇人だとしても、あんなイタい奴と顔を付き合わして暇を潰すなんてゴメンだ。潰される暇だって可哀相になってくる。 心中でぶつくさと毒を吐きつつ家に入ると、玄関の郵便受けに何か挟まっている事に気付く。 手に取ったそれは・・・一本のビデオテープだ。 俺は顔をしかめた。 「親父・・・」 贈り主の名を呟く。 親父こと、鈴木章秀(すずきあきひで)。彼はフリーのカメラマンであり、ジャーナリストであるという。後者は彼の自称でしかないが。 仕事の量は、正直少ない。月に二、三件くれば良い方といつか言っていた。 しかし、それもその筈。 彼―――鈴木章秀は、”不幸”しかレンズに写さない。 それは不況の波に呑まれ収入の途絶えた大家族の苦しい家庭環境だったり、時には道端で無惨に轢き殺された猫だったり、また時にはどこかの貧しい国にまで行って撮った路地裏で野垂れ死ぬ子供だったりする。 悪趣味、とけなす者が後を絶たない彼の写真―――たまにインタビュー付きの動画―――は、しかし何処か、見る者に強いて”不幸”を考えさせるような・・・そう。 まるで、圧迫感とでも言うべきものがある。 そのおかげで一部の雑誌や、時には新聞等にも彼の写真は使われるのだが。 ―――正直、こういうのは止めて欲しい。 俺は手元のビデオテープに目線を落とす。 そのテープの中には多分―――いや、十中八九、また何処かの国で撮影してきた”不幸”が入っている。 彼は何故か、定期的にこういうものを俺の元へ送り付けてくるのだ。 嫌だ、見たくない。 勿論、そう思いはする。 それでも俺の手は自然とテープをケースから抜き出し、ビデオデッキへと差し込んでしまう。 それは単純に、惰性的にこの動作を行ってきてしまったが故に俺の身体に染み込んだ癖なのか。 あるいは、俺の中の何かが、無意識的にそれを求めてしまっているのか。 そう考えているうちにも、ビデオは再生される。 暗い画面。まだ何も表示されていないその空間。 不意に、テロップが表示された。        カラス 『今日のお前は鴉だ』 白い明朝体のテロップが、妙な不気味さを醸し出していた。
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