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簡潔に言えば、それは一羽の鴉の頭に付けられたカメラが捕らえた映像であった。
が、国が国だ。
産業廃棄物の垂れ流しで自然が汚染されたその国に魚など居ないし、下水を駆け回るネズミも右に同じである。広範囲を渡り歩ける鳥類が唯一生き残れているようなものか。
―――俺は眉間に皺を寄せる。
俺はほくそ笑んだ。
汚れた街を見下ろし、笑う。色々な街を見て来たのだから。その街がいかに廃れているか、手に取るように解るのだ。
案の定、何も無い。何も居ない。
生ゴミすらも、腐敗が極限に達しとてもじゃないが口に等できない。
さあ、腹が減った。
俺は急に旋回する。目下の広場に見切りをつけ、廃墟のようなアパートが立ち並ぶ区域の上を飛んだ。
汚い街の上には、褪せた空がある。
汚染された空気、スモッグ。それらに覆われた空は、まるで素顔を隠した白塗りピエロのよう。
ゆっくり、飛ぶ。まるで運任せのように、非効率的に、食事を捜す。
期待はしていなかった。
しかし唐突に、つんとした臭いの中に、鉄のような香りを感じ取る。
その元は、一人の赤子だ。俺は鴉。臭いには割りかし強い。
四、五歳の赤子が、躓いて転んだようだ。どこか擦りむいたのだろう。だって血の臭いがするもの。
下腹がぷっくりと膨れたその赤子はもう、立つ力も無いようだった。その手に弱々しく握られた藁半紙は、不自然にちぎれている。
荒野にそびえる岩のような石造りのアパートと、その赤子の汚い肌色が妙にマッチしていた。
もう俺は何も考えない。
さっさと理性を棄てる。
鴉でなく、単なる一匹の獣に戻る。
さあ、急降下だ。
―――ああ、ああ。なんて。
地面がぐんぐん迫る。目測を誤りそうな程のスピード。
―――おいしそうだなあ、おいしそうだ
しかし俺は止まらない。
さあ、ああ。
―――いただきます。
次の瞬間
俺は、みずみずしい血液に視界を奪われた。
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