憎しみの矛先

7/10
前へ
/72ページ
次へ
目をうっすら開ける。 視界は歪み、まだ真っ赤な火が揺れていた。更に火の威力は激しくなり、だけど倒壊はされていない。 城は丈夫に作られていた… 「…魔法」 痛くないし熱くない。 私の周りに覆うのは結界。 いつの間にか魔法がかけられていた。 一体誰が? いえ自分が無意識にしたのだ。 自分の身に危険が生じる時に自動的無意識に発動する魔法。 例え意識が失っててもそれは発動する。 「…もしそれがなく、魔力も人並みになく、…魔法が使えない人間だったら…」 きっと死んでいた… 「……お母様…お父様…」 視界がぐにゃりとして道がわからないが、なんとなくあと少しで両親の寝室につくだろうとわかっていた。 躯を起こし、立ち上がる。結界はいずれ消える。魔力は体力を消費する。 だから急がなければ… 私は寝室部屋へと向かったのだった… そしてそれはすぐに見つかる。 ドアノブに触れる。普通の人間なら火傷を負うだろう。しかし今私の躯の周りには防御結界がはられている。多少の痛みはあれどノブに触れられた。 「……」 ゆっくり躊躇いなくノブを回した… 「え…」 そして私は息を呑む。 「っ…お父様…お母様……」 倒れている父と母。その二人は遠くから見てもわかる。火の赤が邪魔してもわかる。 「し…で…る?」 血を流し、息絶えた二人。 母親だけ何故か惨い死だった。 あの日記を思い出す。 兄が生まれた時、母親の腹を食い破った……と。 それをまるで再現するかのように兄とは関係ない母、私にとっては大事な母が腹を裂かれ、臓器が晒されていた… 「う…ぷ…」 気持ち悪い。 一体誰が? 何故お母様だけ? お母様だけ恨みがあったと? なら横にいる父は巻き添え? 「う……」 ハンカチを取り出し口元を押さえる。 「は…っ、んく…お兄様…お兄様…」 もう私の頼りは兄しかいない。兄しか家族がいない。無償に兄の顔を見たくなった。周りがどう思おうと、確かに怖いけど…でも私には兄が必要なの。 お兄様はどうかご無事であって欲しい… 私は2つの亡骸に顔を背け、元きた方へ戻った。 が、まだ悲劇があった… .
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加