憎しみの矛先

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『私は妻を愛していた。凄く凄く愛していた。誰よりも。なのにあの…妻の腹にいた我が子は…なんとおぞましいか。母親の腹を食い破り、血だらけになりながら生まれてきたのだ。口をもぐもぐとさせていたのは母を食い破った腸を口にしていた為。赤ん坊には歯はない。なのに生まれたての赤ん坊に歯があったのだ。妻は…小さな悲鳴と痙攣をさせながら、死んだ……私はあまりの憎悪に殺そうとした。しかし、できなかった。仮にも愛した妻との間に出来た子供だから。だから私は殺さず、その赤ん坊を地下室に魔法結界で幽閉した。ほんの親心、小さな親心で毛布や服、食べ物も置いて…、そうしてる間にいつしか私は息子がいた事を忘れ、新しい女性を愛し、子をもうけ、婚約した。最初、周りから非難を受けていた。前妻を思うとそうだろう。愛人は許されるが妻は一人しか許されない。そんな国だった。しかし今の妻も本気で愛していたから、愛人なんてよびたくなかったのだ。新しい妻の腹にいるのは女の子。小鳥のように可愛いらしく上品に育って欲しい為に名前をカナリアとつけた。しかしカナリアはおてんばな子に育ったようだ』 更にページを捲る。これで最後のようだった。 『カナリアは優しい子だ。どうか元気に成長して欲しい。生涯幸せに。優しく思いやりある男性に好かれ恋し、結婚して欲しい』 「お父様…」 『カナリアにはあの秘密は知られたくないのだ。兄弟がいたという事を……それにあれは…ルヴィシャスは…………』 「?」 そこで文字が途切れていた。 とても気になる所で止まっている。 「……」 兄様が何? 凄く気になった。 とにかく私と兄様は兄弟だが半分血が繋がり半分繋がっていないというのがわかった。 正直ショックだった。 それでも表に出さないよう振る舞い、私は日記を元の場所へ戻し、書斎を後にする。 しかし私はまだ次のページに一言文字が書かれている事に気付いていなかった。 ―私は近いうち…死ぬかもしれない… .
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