酒の勢い

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皆見てるよぅ」 などと、片手で顔を押さえ、もう片手で晴景の肩を叩きながら、暴走したことを言っていたらしい。  晴景の腕に私から抱きついた。 「も、元就、ちょ、止めないか」 「晴景は、私の事が嫌いなの?そんなに、嫌いなの…?」 今にも泣き出しそうな表情を晴景に見せ、そう問い始める。その一部始終を見ていた三人がヤジを飛ばし始めた。 「元就はん、可哀想やわぁ。ただ、甘えたいだけなのになぁ」 「あーあ。晴景殿、元就殿の事、泣かしたぁ」 「大人気ないですねぇ」 気まずい空気になったのか、オロオロし始める晴景。だが、そこにかすががちゃちゃを入れてきた。 「どうせ、酔っ払っているだけでございましょう?気になさる事などありませんわ。晴景様」 ちらりと私の方を見たかすがは、明らかに私の事を馬鹿にしている目だった。  その視線で、酔っていた事もあるだろうが、逆上した私はその部屋を飛び出した。右足を引きながら、裸足で庭に降り、春日山を後にする勢いだった。  石段をよろけながら少しずつ降りていく。酔っていて視線が定まらない。城壁に体重をかけ、爪先で地面を確かめながら足を下ろしていく。 「元就!」 遠くから晴景の声がした様に聞こえた。
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