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だが、気にしていられなかった。
「元就!」
また、私の事を呼ぶ。徐々に近づいてくる。
疲れたのか、一瞬気が緩んだ。
「うわぁっ!」
…手が滑り、足に力が入らず、石段を踏み外して派手に転がり落ちた。
「元就!大丈夫か!」
声に気付いたのか、此方へ晴景が駆けて来る。起き上がり、この場から逃げ出したいが、体が言うことを利かない。
「元就、怪我は無いか?」
私の事を抱き起こし、頬を軽く叩かれる。晴景の手を払うと、ため息と共に安心した表情を見せる。
「は…るかげ…?」
「酔っているんだ。頭でも打ったらどうしようかと思ったぞ…
…元就…?」
「は、離せ!離せぇ!」
突然、晴景の腕の中で暴れ始めた。何故そうなったのか、私自身よく覚えて居ない。
酒と疲れと…とにかく、色々なものが重なって、一気に出てきてしまったのかもしれない。
「落ち着け!元就、落ち着けって!」
「離せ!私なんか居なくても良いのだろう!離せ!」
「元就っ!」
晴景に抱き寄せられ、なおもがく私。もがけばそれだけ晴景の腕に力が入る。私ほどとは言わないが、あの細い腕の何処にそんな力があるのだろうか。
抱きとめられた晴景の体から、じわりじわりと体温が伝わって
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