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「あっちゃん、朝だよ~!ほら、起きないと会社に遅刻しちゃうよ?」
どこか間延びした声に、微睡みの世界から乖離させられる。
『あっちゃん』。俺の名前が『篤(あつし)』だから、あっちゃん。大学で付き合い始めた頃はくすぐったかったその呼ばれ方も、結婚してそろそろ1年になろうかというこの時期には何の感慨も無かった。
「ん、あぁ……おはよう、優」
寝ぼけ眼をこすりつつ、言った。
優――元、俺の恋人にして現、俺の嫁である彼女は、文句無しに可愛い。
長い黒髪。大きな瞳に薄い清楚な唇。どちらかと言えば、ブラウン管の向こうにいそうな容姿だ。いや、最近は液晶テレビが主流だから、ブラウン管は無いのか。どうでも良いが。
寝起きのせいか思考がまとまらない俺に、優は催促するような顔と口調で。
「ね、あっちゃん……おはようのちゅーは?」
「……あぁ」
言われるがまま、優に軽くキスをする。
「えへへっ……ご飯の用意できてるから、早く来てね?」
パタパタとスリッパの音を鳴らしながら、優は俺達の寝室を後にする。
――優と付き合い始めたのが、大学の三年の時だ。
それから大学を卒業して、二年間働いて、俺からプロポーズして、そしてもうすぐ結婚生活1年を迎える。
だから、優との付き合いはかれこれ5年くらいになる。
お互い初めての彼氏彼女で、付き合い始めは上手くいくかどうか不安だったのだが……なんだかんだ、こうして上手くいっている。
……けど、時折分からなくなる。
俺は今、優の事が好きなのか?
25歳にもなっておはようのキスをせがむ彼女は、本当に可愛らしいと思うけれど。
キスの時、昔は感じていた胸の高鳴りが――あぁ、俺はコイツが好きなんだって実感させてくれるソレが……今は、無かった。
あるのはただ、唇に残った彼女の温もりだけだった……
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